NPO法人 東京里山開拓団

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

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 目指すところ>代表の思い>里山開拓の意義を再考する(2016年6月)

 

2つの児童養護施設との里山開拓

2016年5月、五月の心地よい青空の下で調布学園さんとの里山開拓が初めて行われました。参加者は子どもたち8名、職員のみなさん4名、開拓団6名の合計18名です。開拓団にとっては、2012年から約30回実施してきた大田区の救世軍機恵子寮さんに続いて2件目の児童養護施設ということになります。

3月に会員の家族が勤務しているということで初めて訪問して以降、話はとんとん拍子に進んで実施となりました。これは調布学園さんがボランティア活動の受け入れにオープンな姿勢をとられていたことが大きいのですが、当方もすでに多くの活動実績を重ねてきまして活動の効果や安全性確保などの対応について自信をもって説明・調整できたこともあります。2009年の当団体設立当初、何十件もの児童養護施設にアプローチしても実施に至らなかったことを思い出すとボランティア活動にとって積み重ねがいかに大切かを感じます。

さて、実施当日は、開拓団側は一足先に里山に到着して、当日の予定や分担確認、トイレ用テントの設営、ハンモック設置、危険個所の事前確認などを行いました。そして、私は一人下山して9時半に調布学園のみなさんをふもとにお迎えに行くとすでに車2台で到着していました。

子どもたちにとっては里山に行くのも私と会うのも初めてでしたが、みんなで気さくに話したり、虫や花を見つけては足を止めたりしながら、伐り拓いた山道を登っていきます。15分くらいで雑木林を伐り拓いた第二広場に到着して、しばらくは自由時間です。子どもたちは、ハンモックを見つけて早速飛び乗ります。ロープの長さが6メートルくらいあるハイジブランコに乗って、「こわーい」「たのしー」と思い思いの大きな歓声が響きます。崖の上にあるツリー展望台3階に上がっては、仲間に呼びかける子もいます。

その後、お互いに自己紹介して、午前の企画は「里山大運動会」です。第一種目は長いロープを坂道に沿って設置して、それを頼りに目隠しをして進む「暗夜行路」です。目隠しをすると途端に不安な気持ちに包まれて一歩ずつ恐る恐る進んでいきます。

子どもたちの方がむしろ大人たちより怖がらずにすたすたと進んでいました。不安心理というのは大人になっていく過程で生まれてくるものなのかもと思いました。第二種目は、自転車のタイヤ転がしを考えていましたが、大人でもうまく転がせず急きょ次の種目へ。できるだけ里山にあるものをうまく活用することを基本方針としているのでこういった変更はよくあります。第三種目は、4つのチームに分かれて、里山の虫や花探しです。カメラで写真を撮影して種類の数を競います。中には17種類もの虫や花を探し出したチームもありました。いずれも初めて里山に来た子どもたちが自然とのつながりを直接感じられるよう、開拓団の会員が事前に協議して考えた企画です。

お昼はたき火でソーセージや野菜を焼いて食べる素朴なバーベキューです。料理係は肉や野菜を串に刺したりホイルでくるんだりして準備します。たき火係は薪を近くで探すところからです。たき火料理をするには燃えやすい葉っぱからしっかり火のつく木までいろんな種類があるといいのでみんなで協力して集めます。いずれも子どもと大人が一緒になって取り組みます。

午後は、基本的に自由時間です。木を輪切りにして写真たてなど自分の好きなものを作ったり、ハンモックや展望台、ブランコでのんびりしたりして1時間余りを過ごします。この自由時間こそ自分自身で里山の魅力を実感する大切な機会と思っています。

14時半くらいに集合写真を撮って下山しました。山道ももちろん私たちが伐り拓いたものですが、あまりしっかり整備していないので滑りやすいところもあります。ただ、子どもたちはそんなところも楽しさに変えて下っていきます。15時前にふもとで解散して調布学園の皆さんはとお別れし私たち会員はバスで高尾駅に戻りました。

 

里山開拓の意義

みんなと別れてからの帰り道に、児童養護施設の子どもたちとの里山開拓について、今一度考えてみたいと思いました。それはこの取り組みが単に子どもたちとともに自然を楽しむ活動を超えたところに入りつつあるのを感じたからです。

これまでの30回を超える里山開拓では試行錯誤しながらいろんなことに取り組んできました。例えば、ここにあるブランコやシーソー、ツリー展望台、たき火かまど、トイレなどは、救世軍機恵子寮の子どもたちとともに作り上げてきたものです。そして四季を意識して自然の恵みをできるだけ活用し他取り組みもしてきました。書初めは筆を作るところから、羽子板は板を削るところから、水鉄砲は雨水を集めるところから行います。もはやこうなると単なる遊びのレベルを超え、楽しく生きる力を取り戻そうとする取り組みになっていると思います。

こうした機会はなんでもお金があればできる、でもお金がないとできない現代都市社会では実は得られにくいものです、ここ里山ではそんな機会を自然に作り出すことができます。そしてその方が単なる遊びより何倍も楽しいことにここに来た誰もが気付くのです!

しかし今、里山開拓の意義というのは楽しく生きる力を取り戻すというだけにとどまるものでもないと感じています。今回、児童養護施設の子どもたちと私たちが伐り拓いて活用を進めたきた里山を、別の児童養護施設の子どもたちにも提供していくことになりました。誰かのためにはじめたというよりはまずは自分自身が活用するためにしてきたことなのですが、それが、結果として他の人にも喜んで活用してもらうことにつながっていくのです。

きっと、調布学園さんの子どもたちもこれからもっと頻繁にこの里山に通って、一緒に里山を伐り拓き様々な自然資源の活用を工夫するようになると、結果として、救世軍機恵子寮さんや今後里山にやってくる別の施設の人のためにもなっていきます。さらに今後はこの里山を企業のメンタル対策研修のためにも活用する予定ですので、この里山を伐り拓いて活用することはやがては大人のためでもあり、企業のためにもなっていくものと想像しています。

ここには出来合いのお金をかけた立派な設備はないのですが、実はもっと別の大切な価値を与えてくれます。他の人が里山を伐り拓いて自然の恵みを活用した痕跡をみると、他の人にこんな自然の使い方があるのかという発見と刺激を与えてくれるのです。実際、自由時間になると自分たちの発想で何かを作りたくなる子どもたちが大勢います。

この里山は、一見しただけでは何にもないように見えるかもしれません。でもじっくり関わろうとする人たちには、そこに様々な体験の記憶があふれているのが見えてくるのです。

それは言い換えると、「自分のために」と「誰かのために」が一つになる体験の記憶です。そんな体験の記憶というのは一昔前の日本社会では特別なことではありませんでした。貧しくとも何とかしようとみんなが力をあわせることで社会が作り上げられていたからです。もちろん里山もその対象の一つでした。

しかし、豊かになった現代都市社会では、とかく他人との競争に打ち勝って有利な立場を確保することが成功の秘訣として強調され、与えられた課題のなかにあらかじめ決まった答えを探すことが教育と称されるような薄っぺらさが蔓延し、実際に社会の様々な面で格差や分断が広がっています。

そんな現代都市社会の課題を克服していくには、批判するばかりでなく、社会の本質を見つめながら他の人たちのためにできるところを自ら試しながらやってみることが大切と思うのです。私たちの里山開拓の意義というのも、本質的には楽しみながら生きる力を養い、結果として自分のためにとどまらず他人にも貢献できるつながりを生み出していくところにあるはずと改めて考えています。

                    2016年6月 東京里山開拓団 堀崎

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