NPO法人 東京里山開拓団

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

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 目指すところ>代表の思い>新任職員向け里山研修にて(2019年5月)

児童養護施設新任職員向け里山研修

5/23木曜、初夏を感じさせるような晴れ空となり、大田区の児童養護施設・救世軍機恵子寮新任職員3名を対象とした里山研修を行いました。実は、7年余り一緒に里山開拓を進めてきた機恵子寮の高田さんが今年度より施設長に昇格されて、新任職員の研修として直接里山を現地を見てもらい、この場が子どもたちにとってどんな価値をもつのか自分自身で考えてもらいたいというご相談を受けていたのです。

集合は、いつもの里山開拓より一時間遅い朝9時に高尾駅です。女性の新任職員3名の他、高田さん、開拓団2名が顔を合わせました。
バス20分、登山15分で山頂に至る通いやすい道のりですが、それでも坂道は普段使わない筋肉を使うので初めていく大人はたいてい息切れします。ところどころで一休みしながら里山の説明を行いますす。裾野はヒノキやスギが植林されていること、枝打ちや間伐は行われるもののなかなか林業として成り立たせるのは難しいこと、コナラやヤマザクラの雑木林に入ると風景が一変すること、そしてこの歩いている尾根道は私たちが人の入れなかった薮を伐り拓いたもので、こうして人が歩くことによって維持されていることなど・・・

広場に到着したら、一休みしてハンモックやトイレのテントなどを設置し、ツリーハウスやハイジブランコ、シーソー、ターザンロープなども実際に体験してもらいます。大人自身がまずやってみることで子どもたちがやる前の安全確認にもなります。里山の外に飛び出していきそうなハイジブランコに少女のような顔を見せる新任職員もいました。

午前企画は、実際に広場や道づくりというのはどんなものなのか体験してもらおうと、実際に木をのこぎりで伐ってもらいました。細めの木でものこぎりの扱いに慣れないと時間がかかり、汗も噴き出してきます。そしてやっと伐り出した木をよく観察してもらい、何に使えるか考えてもらいました。なかなかいいアイデアなんてすぐには出てこないのも実感してもらいます。結局、幼児担当の方もいたので輪切りにして皮をむいて積み木などを作ってもらいました。木の種類にもよりますが、この季節、木は皮と木質に間にある導管で水をたくさん吸い上げるので皮は面白いようにむくことができます。

昼食準備は、頂上広場に移動して行います。この広場も子どもたちとともに木を伐って拡張し、石かまど、テーブル、雨水タンクなどみんなで協力して作り上げたものであることを説明します。本日の献立は焼きそば、チキンバター醤油炒め、果物ジュースのシャーベットです。いつもは子どもたちが率先してやってくれる枯木集めや火起こしを新任職員の方々にも体験していただきます。きっと、大人でもなれないと火を起こすのは大変ということ、そしてでも細い枯木から少しずつ太い木へとしっかりと火がき大きく燃え上がった時には達成感を感じてもらえたのではと思います。もうすっかり暑いくらいの季節ですので、炒め物と冷たい飲み物の組み合わせはいい選択でした加えて新任職員の方々が考えて持ち寄ったジャガイモやシイタケのバター焼きも添えられ、お腹も心も大満足の食事ができました。

この後、いつものように自由時間も体験していただきました。ハンモックに揺られたり、周りの自然を観察したりしながら2,30分ほど自由に過ごしまし、最後に集まって里山の感想を聞きました。

新任職員からは「子どもたちから楽しいところとは聞いていたが、本当に自由な発想で子どもたちと手作りで創り上げてきた空間でした」「普段は制約の中でだめとしかってしまうことがここでは自由にできるので、いいところを伸ばすことができそう」といった感想をいただきました。

また、高田施設長からは「この里山はいろんな観点で価値がある。子どもたち同士が苦労して協力できる場、楽しさを追求できる場、いろんな大人に会える場、創意や発想を形にできる場など施設内では提供できない価値がある。これまでに半数くらいの職員が里山を知るようになったが、今後はぜひ職員全員に一度は里山を体験してもらうようにしたい」というお言葉をいただきました。私たちボランティアにとって何よりの励みとねぎらいになる言葉であったことは言うまでもありません。

そして、13時半に集合写真を撮って下山して解散となりました。

ハンモックに揺られながら

今回の新任職員向け里山研修は子どもたちがいなくて余裕があったこともあり、私自身にとってもいろんなことを感じ、考える機会となりました。自由時間には、私も木漏れ日とさわやかな風の中でハンモックに揺られて休憩しました。そのとき、私は単に体を休めているのではなく、自分自身が心の底から解放されていることに気づきました。普段、日常生活のなかであせったりいらいらしたりする自分はなんとちいさなことにこだわっていたのだろうとも考えました。やがて、そんな考え事もやめて目をつむっていると、自分の内と外を隔てていた境目がなくなったように周りの自然と一体になる感覚、そして周りの何ものにも不安を感じることのない安堵感まで感じられたのです。

後で考えてみたのですが、もしかしたらこういった感覚は人が命を授かったとき、母体と完全に一体であったときの感覚なのかもしれないと思いました。きっと生まれたばかりの自分も、なんの悩みも不安もなく、自分なんていう意識もなく、一点の曇りもない一体感と安堵感に包まれていたはずです。それは今生きている世界中の人すべて、過去に存在した人すべて、そしてこれから存在するであろう人すべてが共通して感じたことのある唯一の体感といえるかもしれません。里山では大人から子どもまですぐハンモックにみんなはまるのもそのせいかもしれないとも思いました。

私の妄想はもう止まらずその先へと拡がっていきます。たいていの場合、人は生まれてからしばらくは家族との一体感・安堵感の中で生きていきますが、やがては自己が芽生え、そして外部からの様々な刺激を受け、成長するにつれて親から離れて自立してかつて味わった一体感・安堵感はどこかへ消え去っていきます。しかし、いくら自立といっても本当の意味で一人で生きていくことなんか誰にとっても不可能なことなので、結局みんなそれぞれに苦労し悩むことになります。児童養護施設の子どもたちはそもそもそんな親との一体感・安堵感が感じられない環境に置かれてきたので、なおさら深い苦労と悩みに陥りがちです。

以前、高田施設長から「児童養護施設の子どもたちはこれまで想像もつかないくらい大変な思いをしていて、それを思い出さないために心の中にぽっかり空いた空間があります。そこをいろんな人とのつながりや温かい体験で埋める『育て直し』が必要なんです」と言われたことがあります。

また、救世軍機恵子寮さんは運営方針のひとつとして、「自動(電)化・機械化を極力排除し、24時間の暮らしを『手作り(=手をかけることの意)』性を基本に子ども達と共に作り上げる」という言葉も掲げられています。

里山にはそんな心の空間を埋めるための理想的な環境があります。どんな人でも拒絶せず、受け入れてくれる空間があり、周りの目などなく一切気にする必要がありません。ここでたくましく生き抜いているたくさんの生き物からは自分が生き抜く手本となる刺激を受け取ることができます。そしてここでは、普段は後生大切にしていた肩書も立場もお金も年齢も知識も経験もみんなで楽しく過ごすためには実はほとんど役に立たず、本当に大切なのはお互いにやれることやってお互いに協力し合うことであることに気づきます。そして、里山の恵みを生かして自分たちでふるさとを作り上げるような途方もない取り組みを通じて、自分たちの未来を創り上げていくことができる自信を生み出してくれるのです。

私たちは7年半の経験を通じて、この里山が児童養護施設の子どもたちにとって本当に価値ある存在になる確信を持つに至りました。そればかりか、私のような普通の大人たち、すなわち、大人というだけで子どもにはいろいろと言うけれども結局のところ自分のことばかり考えていて、現代都市社会のなかにあってはいつも過去への後悔や未来への不安に包まれて暮らしている大人たちにとっても、里山はお金では計り知れない価値をもつ存在となるに違いないとも思っています。ここにはちっぽけな自分なんかにいつまでもこだわってしがみつかずに、何も持たない生まれたての自分の原点に立ち戻って楽しみながらやり直してみるための理想的な環境があり、それは全国にあふれる荒れた山林のなかにも見出せるはずと考えているのです。

2019年5月31日

東京里山開拓団 代表 堀崎 茂 

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