NPO法人 東京里山開拓団

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

     

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

目指すところイメージ

 目指すところ>代表の思い>新たな山林の確保(2021年4月)

薮をかき分けて菅生の山林を進む


念願の山林確保

2021年4月、念願だった児童養護施設との里山開拓を行うための新たな山林確保がいよいよ現実のものとなりました。

場所はあきる野市菅生で、東海大学付属菅生学園に隣接する雑木林です。ここには当方にとってこれ以上ないの条件がそろっています。

・都心から1時間余りで行けること。新宿駅から電車1時間・バス10分(車なら日の出ICから10分)、徒歩15分ほどで到着することができます。私たちの活動では都心から頻繁に通える場所にあることがとても重要な要件なのです。

・豊かな生態系の残された雑木林であること。オオタカ、フクロウ、トウキョウサンショウウオなどもいるときいています。

・地主や地域の理解や協力が得られる見通しであること。もちろん今後の当方の活動次第ではありますが、すでに山林を所有する菅生学園には企画提案し内諾をいただいており、町内会にはご挨拶させていただきました。

・東京近郊では稀有な規模を誇ること。所有者との調整が済んでいない山林まで含めると全体では100ha以上の規模があり、多くの施設と活動を拡げていける可能性を感じています。

興奮気味な気持ちを抑えつつ、まずはなぜ念願だったのかから整理してお伝えします。

現在の活動拠点である八王子市美山町の山林は私が開拓しはじめて15年、今は3つの児童養護施設と通っています。しかし、一度に20名ほど参加するので精一杯という広さの制約があるのに加えて、コロナ禍のなかで緊急事態宣言や雨天荒天を避けながら調整しようとするとどうしても開催希望日が重なってしまうことが増えてきたのです。

さらにいいますと、救世軍機恵子寮とは9年間毎月のように通ってきたみんなで創り上げてきた実感があるのですが、他の2施設とはまだ年2回程度にとどまり、ビジターにリフレッシュのための自然遊びの場を提供しているというのが実情でした。もちろん、それはそれで子どもたちは大喜びなのでやりがいは感じているのですが、やはり私たちの思い描く「ふるさとづくり」とはまだ大きな隔たりがありました。

そこでいろいろと思いを巡らせてみて、やはりふるさとを自ら創り上げていくためには「ひと施設、ひと山」が理想と考え、他の山林確保へと動いてきたのです。しかし、荒れた山林などあふれているから探せばそのうちに見つかるはずという見通しは甘すぎるものでした。実は新たな山林を探し始めたのは5年前からで、これまでの様々な試行錯誤をしてみたもののいずれも頓挫していたからです。

最初は当方の八王子の里山周辺の山林について所有者から了解が得られないかと探しはじめました。登記簿から所有者は分かるのですが多くは不在地主化し会うことも難しい状況でした。さらに細分化されていたり共同所有になっていたりして簡単に調整などできそうもありませんでした。

それから、もう少し対象エリアを拡げて東京近郊で通えそうな山林をGoogle Mapで探してみました。といっても、都心から通えるようなところにある山林の多くは虫食い状態に開発が進んでいて、まとまった規模の山林は本当に限られていました。

そして、残された数少ない広大な山林を所有する八王子の大学には積極的に働きかけてみました。関心を持っていただけそうな大学教授に相談し、理事会への提案や、学生を巻き込むための講義も行いました。それでも結局は当方での利用了解に至らず頓挫していたのです。

あきらめかけていたときに、環境保全団体のネットワークづくりを推進されているエコ・コミュニケーションセンターの森様が協力してくださることになり、つながりのある里山保全団体をいくつかご紹介いただくなかで、今回の菅生の山林とのご縁をいただくことができたのです。

この5年間を振り返ってみますと、荒れた山林対策を阻む壁の存在を改めて実感してきました。荒れた山林はあふれているのに地権者との調整ができず手を付けられないのです。そこには、山林の不在地主化、高齢化、都市化・過疎化がもたらす壁があります。でもそれだけではありません。登記制度の形骸化、個人情報管理の厳格化といった壁があるのも感じました。さらには土地所有者に「貸したくない」と思わせるような戦後の法制度や農地解放のトラウマという壁まで今も残存している気がします。これらの壁にこそ荒れた山林の問題が一向に解決しない理由の一端があると考えています。先般、所有者不明土地関連の法改正にて登記の義務化や放棄地の国への帰属、共有解消手続きの簡素化などが決まりまして一歩前進とは思いますが、これだけで荒れた山林の社会的活用が進むとはまだ到底考えられない状況なのです。


荒れた山林の社会的活用を拡げるために必要なこと

さて、今回は現地訪問2回目で現地確認や作業着手まで進んだことに大いに満足して帰り道につきました。そのとき私の頭の中を駆け巡っていたのは、荒れた山林の社会的活用を本気で全国に拡げていくために必要なのはなんだろうということでした。

まず感じていますのは、「すでに山林に取り組んでいる方や地域の方々と連携すること」の大切さです。

今回菅生の山林活用の調整がとんとん拍子に進んだのは誰より、ふるさとの森づくりセンター理事長・浅原様のおかげです。当方は一度お会いして簡単な資料でご説明しただけでしたが、当団体の活動にいたく共感いただきまして、地主や地元のキーマンの方との合意をどんどん進めていただきました。これは30年来菅生にて環境保全や環境教育に取り組まれてきた方だからこそ実現できたことです。さらにはふもとにある民家を一緒に活用しましょうと合鍵までご用意いただいたのです!

そして山林地主である菅生学園の理事長・島田様、事務長・早川様にもとても感謝しております。長年未活用だったとはいえ見知らぬ人に山林を提供することには不安や抵抗感もあったはずです。それでもご理解を示していただけたのは、長年菅生で「自然が、教科書だ」という教育方針を掲げて実践される中で、豊かな自然こそが豊かな心を育むことを深く実感されているからなのではと想像しています。実際、菅生学園の生徒さんたちは、見知らぬ私たちにも生徒のみなさんが気持ちよく挨拶をかけてくれまして、そんな学園の教育方針が根付いているのも感じました。

そして菅生町内会長の野口様には、神社近くのスペースに駐車させていただくことも快く了解いただきました。当団体の活動では児童養護施設側は車でやってくるので駐車場所の確保が必須なのです。もちろんそれだけでなく、地域の方に当活動へのご理解を進めたり、緊急時には相談したりできる心強い存在です。

でも、連携を進めれば荒れた山林の社会的活用を全国に拡げていけるのかというとそうではないでしょう。そこには大きな前提があります。それはなにより「自分たちが本当に信頼されるに足る存在となること」なのです。そうでなければ連携といっても耳を傾けてもらえるはずがありません。

でも、いったい信頼ってどこから生まれるのでしょうか。現代都市社会の日常生活のことなら、肩書や資産など存在が他の人からの信頼を生むのに何らかの役立つかもしれません。ただ、ここは肩書や資産のある人たちも含めて現代都市社会に暮らす誰もが長年見ようともしなかったところですので、それが信頼につながるはずがありません。

私にはいま信頼されるためには次のようなことがとても大切に思えているのです。

・理念:何のために山林を活用するのかについて共感を生み出す理念を持っているか

・実績:その理念に基づいてどこまで継続して実践してきた実績をもっているか

・組織:継続して活動を推進できる組織や実行力、つながりはあるか

・責任:言ったことをやる、約束を守る、報告連絡相談をするといった責任ある行動がとれるか

・自信:自らの経験や思索の積み重ねから結果を出すことに自信をもっているか


最後の「自信」について補足しますと、今回の里山下見でもこんなことがありました。

浅原様にはすでにつくられた沢沿いの道を案内いただいたのですが、私たちはそこからさらに分け入った尾根を進んでいきたいとお願いしました。

そこは道などもちろんなくやぶを刈り払わないと進めないので普通なら入ろうなんて考えもしないところです。でも、実は初回訪問の後、すぐに地形図を入手して、この山林のどこが使えそうか想像を巡らせてこのルートに目星をつけていたのです。

少し開拓を進めてみて、同行した4名の当団体メンバーはみな、ここならいい里山になるのを確信しました。この尾根は、中低木を刈り払っていけば風通しがよくなり明るく見晴らしもきくようになっていきます。傾斜が緩やかなので絶好の活動拠点になるはずです。危険な係り木も見当たりません。まずは大人が中心になって安全確保や危険確認、管理ルール、責任の所在、関係者との報告・連携などの取組みを進め、多少の下準備を進めることができれば、あとは児童養護施設の子どもたちと大人が一緒になって楽しみながら開拓を進めて道や広場、各種設備を創り上げることができ、やがては自分たちの手でふるさとづくりを進めていけるという見通しを思い描いたのです。

きっと普通の人にとっては荒れた山林は荒れた山林にしか見えないはずです。でも、フランス作家サン・テグジュペリの「心で見なければものごとはよく見えないってこと。 大切なことは目に見えないんだよ」という『星の王子様』の名セリフはまさにここにもあてはまります。 私たちの心のなかには荒れた山林がふるさととして生まれ変わるイメージとそれを自らのチカラで創り出していけるという確信がはっきりとあるから、関係する方に自信をもって活動を推進する見通しを伝えて実行することができ、それが故に信用がうまれていくのではないかと思うのです。

今回、私にはこんな自らの経験や思索の積み重ねから生まれた自信こそが当団体にとっての大きな財産であることが改めましてはっきりと認識できました。そして、当団体メンバーの心のなかにも、荒れた山林をふるさとにしていくこと、それは誰かにつくり上げてもらうものではなく、実は荒れた山林の現状を見ながらこころに想像のふるさとを描いていく最初のプロセスこそが一番わくわくするところであることまでだんだん伝わってきたこともうれしく感じています。

児童養護施設側からは早速、「コロナ禍で外出の難しい状況が続くなか、都内で他の人に会わずにみんなでお泊りして大自然を体験できるなんてぜひ」という声もいただきました。そう、私たちはコロナなんかにいつまでも負けてはいられないのです。ステイホームでストレスを抱えて我慢するなんて思考停止をいつまでもしている訳にはいかないのです。ステイホームというなら自分にとっての「ホーム」を近くで各地に拡げていけばいいのです。この山林なら他の人にほとんど会わずにストレスを解消し同時に社会貢献までできる機会を作り出すことができます。そしてここならいつか東京中の児童養護施設と里山開拓を進めたり、山林だけでなく地域とのつながりや空き家や休耕地などの資源も生かして困難な環境にある人たちの自立支援も進めたりできるはずと、私たちの夢は拡がるばかりなのです。

2021年4月 東京里山開拓団 代表 堀崎 茂

 

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