NPO法人 東京里山開拓団

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

     

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

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 目指すところ>代表の思い>一生居られる場所とは(2022年5月)

さとごろりん滞在の感想

2022年5月、当団体にとって5件目の連携となる児童養護施設「若草寮」(東京都渋谷区)のみなさんが、児童養護施設のための里山付き別荘「さとごろりん菅生」(東京都あきる野市菅生)を初めて利用してくれました。そして、楽しい手書きイラストのお礼状とともにこんな感想をいただきました。

「のんびりできる時間が最高。一生ここに居れる

「東京都なのに大しぜんで住みたくなりました」

職員のみなさんにとっても「予想以上の大きな反応」だったとのことでした。

これは、私たちにとってはこれ以上ない究極の誉め言葉です。子どもなりのリップサービスかもしれませんが、もしそうであってもこの上なくうれしいのです。昨年3か月・少予算の素人DIYでリニューアルオープンさせたことも、多くの方に広く本の寄贈を募って里山文庫を開設したことも、地元関係者とのすれ違いを調整して再開にこぎつけたことも、すべてが報われた気がしました。

みなさんも、これはただならぬ感想と思いませんか?私には、もし超豪華な別荘、超高級なホテル、新設のキャンプ場や新築の家に滞在したとしても、一度だけで「一生ここに居れる」といった感想に至ることが想像できないのです。

しかも、この声の主は児童養護施設で暮らしている子どもたちです。親からの虐待などの理由から児童相談所や家庭裁判所の手続きを経て親から離れて共同生活を送っていて、心に大きなトラウマを抱えていることも多いとききます。それなのに、初めてきただけで「一生ここに居れる」と認めてくれたのです――私には、ここが私たちの目指す「ふるさと」、それは、どんなことがあっても最終的にはありのまま受け止めてくれる心の安定に不可欠な居場所となりうることを証明してくれたようにさえ思えたのです。

さとごろりんの工夫

児童養護施設のための里山付き別荘・さとごろりん菅生は、2021年に天井も落ちてすすだらけだった空き家を予算もなくたった3か月の素人DIYで整備したところです。お金をかけた最新の装備なんて一切ありません。それがなぜここまで子どもたちの心に響いたのでしょうか。

ポイントは「心の解放」にあると考えています。

私たちは児童養護施設の子どもたちと10年以上荒れた山林の開拓に通う中で、一回来ただけで子どもたちの心が大解放されるシーンを多々目撃し、その理由がどこにあるのかずっと深く考え続けながら、どうすればもっと心が解放されるのかたくさんの試行錯誤を重ねてきました。

実は、さとごろりん菅生には、私たちが里山で感じてきた心の解放感を感じられるようにするための仕掛けがいろいろと施してあるのです。

・旧)物置→新)ハンモック部屋

物置になっていた部屋は大改修して柱に金具をつけた3つのハンモックが常設してあります。これまで里山に通う中で子どもも大人もみんなハンモックの魅力にはまっていくのを見ていたからです。ハンモックに揺られるとありのまま自分が受け止められている実感があるからかもしれません。電灯は里山のツタで手作りしたランプに取り換えて、窓にはカーテン代わりに里山の写真も投影できるスクリーンを取り付けました。

    

・旧)すすけた壁→新)黒板の壁

すすけていた壁は全面補強して黒板塗料を塗りまして、チョークで四方の壁いっぱいに自由に描くことができます。ここに描いてくれた思い出ややりたいことは後から別の施設の子どもたちのこころにも次々と伝播していくのです。私たちは里山では全体がキャンバスのようなものでそこにいろんな試し書きをし、消してまた書きながらみんなでふるさとへの思いを拡げてきました。それと同じことをここでもやりたかったのです。

・旧)押入れ→新)里山文庫

埃だらけだった押入れは2段の勉強部屋に改修し、通称「ドラえもん部屋」となりました。また、私たちの取組みに共感していただいた方々からの書籍寄贈で里山文庫もできました。図鑑は特に充実していて、目の前にあふれる自然をさらに深めて観察、利用していく手助けにもなります。雨でもハンモックにゆられながらのんびり本を読みに来るような過ごし方もできるようになりました。本当は里山にも里山文庫を作りたかったのですが、やはり風雨にさらされてしまうのであきらめていたのですが、ようやくここで実現できました。

・旧)物置→新)寝袋部屋

連携する団体の物置になっていた部屋は床に塗料を塗ってゴザを敷いて蚊帳の中に寝袋を敷いて寝られる部屋に改修しました。蚊帳は私の実家の倉庫に眠っていたものです。今どきの子たちは見たこともないでしょうが、家の中でテント気分で眠ることもできます。

    

・旧)汚いキッチン、トイレ、シャワー→新)全面塗装改修

元々はキッチンやトイレはほこりまみれで、風呂場は窓が壊れ天井が抜け特にひどい状況でした。そこで全面塗装改修を進めました。トイレは私の趣味で野花の一輪挿しを見ながら心落ち着ける瞑想空間に仕立てました。大家さんや連携団体も一肌脱いでくれて、キッチンに換気扇を取り付けたり、シャワールームを里山のひのき張りにしてくれたりしました。やはり気持ちよく過ごすためには手作りでも清潔なキッチン、トイレ、シャワーが必要ですよね。

    

・旧)壊れかけた外壁→新)ひのきの板張り壁

築数十年の板張りの外壁はかなり汚れて朽ちてきていました。そこで大家さんが近くの里山から伐り出したヒノキを製材して手作業で板張りを進めてくれました。これで里山の木々に囲まれた状態により近づくことができました。できればいつか子どもたちとともに塗装を進めたいと思っています。

    

・旧)草の生い茂る庭→新)バーベキュー場、水場、花壇へ

里山でみんなが毎回楽しみにしていることの一つが枯れ木を集めた焚火での料理です。ここさとごろりんでは、空き家全体が背丈よりも高い雑草に包まれていたような状態でしたので、みんなで草刈りして、庭にバーベキュー場、小川にすぐ出られる水場、花壇を作り上げました。庭先には連携団体の無人野菜販売所があって朝とれたての野菜を格安で売っています。バーベキューも小川での水遊びもすぐ目の届くところで安全に満喫できるプライベート空間ができあがりました。

    

私たちは「さとごろりん菅生のしおり」という利用案内も作成して、児童養護施設に配布しています。ここには私たちの思いつく限りの楽しみ方を書いてみましたが、ここをもっと多くの人が利用する中で、さらに多くの楽しみ方が出てくることでしょう。そんな声を踏まえて、これからはみんなでしおりを改定していきたいと思っています。

さとごろりんはなぜ心を解放してくれるのか

ここまでの話をきいて、もしかしたら、古い家屋もきれいにして、ハンモック、寝袋、バーベキュー用品、水遊び用品などを準備すればいいのかと思われた方もいるかもしれません。ただ、それだけで一生居たいと思わせるような環境ができる訳ではありません。きっとよくても一般の別荘やキャンプ場のレベルにとどまると思います。

なぜでしょうか。一言でいうと、来る人に企画者の思いの深さが伝わらないからです。企画者の思いが深くないと、来る人には企画者が用意した質問と回答、やれることとその結果がやる前から透けて見えてきて、時には、型にはまった「いいね」の押しつけのようにさえ感じられてしまうものです。

私たちについていうと、荒れた山林を単に里山保全のために開拓してきた訳ではありません。児童養護施設の子どもたちとともに継続して通い、自らの手で自然の恵みを生かし試行錯誤しながら、ふるさとを一緒につくり上げていこうという思いで開拓してきたのです。

そして、里山付き別荘の方も同様で、単なる別荘として整備したわけではありません。コロナ過のステイホームでストレスが限界という児童養護施設の声を受けて、施設のみなさんだけでも里山ライフを満喫し、できれば一緒にたくさんの発見と思い出を重ねてふるさとをつくり出していきたいという思いで準備してきたのです。

「ふるさと」は、児童養護施設の子どもたちにとって願っても願っても叶うことのなかった場所です。私たちはそんな究極の居場所をどうやったら実現できるのかずっと試行錯誤してきたのです。もちろん、私たちに最初からその答えが見えていた訳でもなく、いまだにその答えにたどり着いた訳でもなく、試行錯誤の途上にあります。ただ、むしろその試行錯誤に重要なポイントがあることに気づきました。それは、完成品を提供することではなく、とてつもなく大きな目標を掲げて試行錯誤する過程に加わって一緒につくり上げることこそが大切だったのです。

ここからは皆さんにも一緒に考えていただきたいのです。「心が落ち着く場所」っていったいどんなところなのでしょうか。私の想像では、高級ホテルにはなくて、ふるさとにはあるものというのが考える糸口になるのではと思います。私が思うに、心の落ち着く場所の要件とは、「いつでも無条件に受け入れてくれること」、「消えてしまうことのない本物の豊かさに触れられること」、「自ら関わることでさらに居たくなる場になっていく予感がすること」です。ホテルは商売ですのでお金があろうとなかろうとという訳には行きかないでしょうし、しばしばやがてゴミになってしまうような装飾もあふれていますし、自分の好きなように部屋の模様替えなんかできません。

しかし、さとごろりん菅生では、児童養護施設は無料(関係者は寄付)で利用できます。目の前の小川、周りには牧場や畑、そしてその奥には里山があり、あふれんばかりの自然の豊かさのなかに自分たちがいて、別荘をさらによりよい場所に改修しながら思う存分関わっていくことができます。普段の都会生活のように誰かに合わせたり自分の心を押さえつけたり必要なんて一切なく、思うまま、ありのまま受け入れられて過ごすことができます。都心から車で一時間と近いので児童養護施設は気軽に通えますし、子どもたちは退所した後もよかったら施設OBOGや会員として私たちと一緒に関わり続けることもできます。

こんな仕掛けとその思いが児童養護施設の子どもたちになんとなく伝わって、ここなら一度は見失ったふるさとが取り戻せるかもしれないという予感とともに心を解放してくれたのではないでしょうか。

里山ライフについてさらに広い視野からも考えてみましょう。ここで里山ライフを満喫してみると、都市の経済はどう見えてくると思いますか?私たちの掲げる里山ライフとは、ふるさとという究極の目標を提示し、それを実現する試行錯誤に自ら参加してもらって満喫してもらおうとしているのですが、それは都市の経済の中ではかなり異端な取組みに違いありません。なぜかというと、都市の経済のなかでは、常に人々は消費者であることが求められるからです。言い換えると面倒なことを自分で考えたりやったりする必要はなく、お金を払ってきれいに仕上げてくれる誰かに代行してもらうことがよしとされているのです。それは結果として経済と呼ばれる対象を拡大し社会全体が豊かになっていくような幻想も抱かせます。ところが、何のことはない、実際の結果は自然や社会、周りとの直接のつながりは消え失せて、お金に依存して自分自身では何もできなくなり、お金がなければそこにいることすら難しい状況を生み出しているのです。

ここで里山ライフを満喫してみると、都市の政治や行政はどう見えてくると思いますか?里山ライフを満喫してみると、多くの人はふるさとづくりという究極の目標の価値を理解し、自らできるところで一緒に試行錯誤することがいかに楽しくて実りあることかが実感できると思います。一方でそこから都市の政治や行政のやり方を眺めてみると、先々のことなど考えもせずに巨額な税金や借金に依存したトシヨリ政治やハコモノ行政が昔から続いていて、お題目のような目標と理屈を掲げつつ結局は既得権益構造にどっぷりと浸かり、自ら試行錯誤することもなく結果が出なくてもいつも責任回避ばかりに見えるのです。

さとごろりん菅生は、ただ単に自然豊かでリフレッシュできる場として提供している訳ではありません。それは、現代都市社会のひずみの中でそのあり方に大きな疑問を感じている方々に、心の豊かさとはなんだろう、それを実現する方法はどんなものだろう、それを実現した社会はどんな形になるのだろうといったところまでを垣間見せてくれる場所にきっとなるはずと確信しているのです。

一生居られる場を拡げるために

私たちの活動運営の面から考えますと、児童養護施設との里山開拓を活動の中心にすえて進めてきましたが、活動展開の限界を感じるところもありました。それは里山という場所の立地や広さ、かかわる施設と当団体の都合や人員の制約、コロナ禍での活動制限などから実施する機会が限られていたのです(現在は年間10回程度)。2件目の里山を当方で活用できるよう調整していますがそれには時間も手間もかかります。

しかし、さとごろりん菅生ができたことにより、児童養護施設が単独で15名程度までコロナ過も気にせずに宿泊も含めて里山ライフを満喫できるようになりました。5施設で利用していてもまだ空き日がある状況ですので、希望される児童養護施設をさらに募集しようと思っています。

私たちはこの二つの里山、一つの別荘がモデルケースとなれるよう実績を積み上げながら、同じ志で連携いただける方々や団体とともにこのような場をさらに拡げていけたらと思っています。

ただ、そこまでできたとしても、きっと遠い、時間がない、引率者がいないなどで通うのが難しい児童養護施設はやはりたくさんあるはずです。そこで、実はもう一つ考えている企画があるのです。児童養護施設内の庭や空きスペースに、里山の恵みを生かしたハンモックやブランコ、アスレチック、バーベキュー場などを手作りで設置して回ろうという企画です。名付けて「出張なんでも開拓団」です(テレビ番組のパクリですみません!)。私たちは、荒れた山林の何もないところでどうやったらお金はかけないけれど自然の恵みを生かして心を解放できる空間ができるか10年以上試行錯誤してきましたので、ある意味その道の「プロ」でもあるのです(ご要望があればどうぞ遠慮なくお問合せください)

全国には約600の児童養護施設があり、約3万人もの子どもたちが親から離れて暮らしています。私たちにできることは、「自然の恵みを生かして心を解放する場を一緒に創り上げていく機会の提供」です。自然と向き合って額に汗して五感で味わい尽くしていると、自然に心が解放されてありのままでいられるのです。そして、荒れた山林や空き家として見向きもされずに放置されていたところが、自ら関わって試行錯誤することでお金なんて大してかけずに、プライスレスなふるさととなっていくのです。

私は、いつか東京中、いや日本中にそんな心の解放される場所が雨後の竹の子のように次々とつくられていって、荒れた山林、空き家、子どもの虐待や貧困、都市での孤立、地方の過疎化、生きがい喪失などのたくさんの社会課題がいつの間にか消え去って過去の話になっていることを心から願っているのです。

20225月 東京里山開拓団 代表 堀崎 茂



 

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