NPO法人 東京里山開拓団

東京の荒れた山林を児童養護施設の子どもたちとともに開拓し自然の恵みを活用するボランティア団体です

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 目指すところ>代表の思い>児童養護施設職員との里山研修合宿(2018年12月)


  

児童養護施設職員との里山研修合宿

本当に夢のような研修が実現しました。

親から離れて暮らす児童養護施設の子どもたちと荒れた山林を切り開いてふるさとを自ら作り上げるという夢のような企画は7年間で50回継続し、私たちにとってはすでに現実の一部となっています。

今後里山活動を考えていくうえで、もし児童養護施設職員と東京里山開拓団が一緒になって研修を行うことができたら、しかも里山にてハンモックや焚火でくつろぎながら実施することができたら、机上で考えることなんかとは全く違った次元にまでたどり着けるのでは・・・実はそんな夢のようなことを想像していたのです。

11月30日夜から12月1日午後にかけて、7年間一緒に里山開拓を続けてきた児童養護施設・救世軍機恵子寮さんから職員4名と東京里山開拓団からメンバー7名の合計11名による研修合宿が行われました。この研修合宿は昨年に続いて2回目になりますが、里山の現場で実施するのは今回が初めてです。

この研修合宿の目的として大きく分けて3つのことを考えていました。一つ目の目的は、まだ里山に行ったことのない職員にこの活動を深く知ってもらうことです。これまで里山に行かない職員のみなさんも子どもたちの里山準備や帰ってからのやり取りなどバックアップしていただいていたのですが、やはり里山の現場や活動を直接ご覧いただきたかったのです。

二つ目は、開拓団メンバーに児童養護施設との里山開拓について深く理解してもらうことです。開拓団メンバーは20代から40代の会社員、主婦、学生などが忙しい時間を調整して参加協力してくれているのですが、活動を始めて3年未満の方がほとんどです。なぜ児童養護施設の子どもたちと荒れた山林をわざわざ手作業で開拓しているのか、何を目指しているのかについてしっかりと考えてもらうことで、この活動に本気で取り組んでくれるメンバーを増やしたかったのです。

そして三つ目は、施設職員と開拓団メンバーが合宿を通じて懇親し信頼関係を高めお互いに率直に意見やアイデアを出し合ってよりよい活動に改善していくことです。

11月30日金曜は夜8時から高尾の森わくわくビレッジの研修室に集まって、まずは何よりビールで乾杯で開始!投影スライドで簡単に開拓団、続いて機恵子寮の紹介が行われて、全員の自己紹介に移ります。それぞれどんな思いで開拓団ボランティアや施設職員になったのか、どんなところが気に入って続けているのかなど、人柄の表れる自己紹介でした。

その後は自由な懇親の場となりましたが、話題の中心はやはり子どもたちのことで、これまでに作ったアルバムも見ながら里山での思い出や施設での様子といった話に花が咲きました。夜10時に会議室利用は終了となり解散となりましたが、男女毎の部屋に分かれてからも夜遅くまで話は尽きませんでした。
 
翌12月1日土曜は、本当に快晴無風の紅葉日和になりました!気温も16度まで上がり1年のなかでも最も心地よい一日ではなかったかと思います。朝8時にわくわくビレッジを出て私たちの里山に向かいます。車で10分ほどの距離です。途中先の台風で木が倒れ掛かっているところは注意して通過します。ツリーハウスを作っている第二広場まではふもとから15分ほどです。

到着したらまずは会場設営です。木漏れ日のあたたかな木立にたくさんハンモックを張ったり、ビニールシートを敷いてのんびりゆったり座れる場所を作ります。講師の座席は倒木です。トイレ用のテントも設営します。

そして「研修①里山の恵みをフル活用する」というテーマで開拓団代表の堀崎から発表がありました。里山の恵みというのは単に木や果実といったものばかりでなく、土も石も落ち葉も雨も坂も空間もみな知恵と工夫で恵みに変えてきたことが紹介され、里山をどう活用していくかについて意見交換をしました。「子どもたちがチェキで写真を撮って帰れば、来られなかった職員や子どもともすぐ共有できるのでは」という意見も出てきて即採用!と思いました。

研修②は一緒にこの活動を立ち上げてきた機恵子寮主任の高田さんから「子どもたちにとっての里山開拓」というテーマで発表がありました。「距離」をキーワードとして、里山まで1時半の道中も子どもたちと話すいい機会になること、職員と子ども、子どもと会員との距離、つまり職員は子どもを制約する立場でなく観察する立場になれること、子どもたちにとっての里山は「非日常」であり日常の中では怒られることもここでは怒られないこと、里山での活動を、職員が本人に振り返りを促せばさらに価値を増すことなどを話していただきました。

11時頃から頂上広場に上がって、今度は体を動かして昼食の準備を始めます。
先日の台風で屋根が吹き飛ばされ柱が折れてしまった水タンクについて、今後は生えている木々を柱に固定できるところへ移動する準備をしました。石かまどの周りに座れる場所を作ろうと考えて、草を刈って、太い倒木を移動させます。これで輪になって座ることができるようになりました。その後、焚火班と調理班に分かれて進めます。昨日の会食で余ってしまった食事は鉄板で炒めなおします。焼きナス+厚揚げ+チーズ、洋ナシ、ベーコンと野菜など様々なホイル焼きにもチャレンジしました。みんなで協力して作り上げる暖かい焚火料理ほどお互いの距離を縮めてくれるものはそうありません。

食事がひと段落したところで、「研修③焚火料理について」というテーマで話してくれたのは3年前から焚火料理に人一倍こだわりをもって参加してくれている開拓団の千葉さんです。焚火料理とはどんなものか、子どもたちにとってどんな価値があるのか、どんな点に注意しているか、これまでどんな焚火料理を行ってきたかなどを分かりやすく資料にまとめてきてくれました。

続いては「研修④里山と教育について」というテーマで開拓団・高井さんが講師になります。高井さんには普段勤務する学習塾での経験を踏まえて、子どもたちの置かれた環境が昔とどう変わっているか、里山を教育にどう生かすことができるかなどについて話していただきました。

開拓団メンバーが里山の活動を自分の趣味や経験などと結び付けて自分の言葉で語れるようになった時こそ、荒れた山林が本当の意味で里山になる瞬間でもあります。ここにこそ研修を行った意味があります。いつか他のメンバーにもぜひ講師を担当してもらう機会ができたらと思いました。

すべての研修が終わり、昼食の片づけが終わったのは14時ごろです。下山までの30分ほどはしばし自由時間です。ハンモックでくつろぐ人、ドローンを飛ばして里山を撮影する人などそれぞれやりたいことをやって過ごします。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、14時半に集合写真をとってから下山します。初めての参加者からは慣れない下れ道に子どもたち以上の悲鳴が響き渡っていましたが、無事15時までにはふもとにたどり着いて解散となりました。

帰宅して私は今回の研修合宿のことを振り返ってみました。

その成果は普段の会議からだけでは決して得られないものだったと思います。支援先の職員と泊りがけの合宿研修まで行っているNPOなんて全国を探してもほとんどないでしょう。しかも会場は数十年以上人が入ることがなく、こどもたちとずっと伐り拓いてきた里山です。そこでハンモックに寝そべったり、自分たちで作った焚火や料理で暖まったりしながらお互いに心を開いて語り合ったのです。そこでの発言は、会社の会議ではありがちな、自分を大きく見せたり、無責任だったり、相手を傷つけたりするような発言など一切出るはずもなく、すべてがお互いのため、誰かのためにじっくり描かれた思いの共有であり、とても現実的かつ建設的なものでした。腹に落ちる議論というのはまさにこのような進め方から生まれるものであり、里山は「会議の場」としても最適という新たな価値にも気づくことができました。ある本で、ネイティブアメリカンは大事なことを決めるとき、焚火を囲んで一人一人が七世代先まで想像して考えがすべて出尽くすまでじっくり話しよく聞いて、最後はリーダーが決断するスタイルで進められる、と書かれていたことを思い出し、少し似たところがあるのかなと感じました。

ある職員の方がこんなことをおっしゃっていました。

「児童養護施設では様々な行事や支援者によるイベントがあります。ただ、里山開拓ほど、子どもたちが次はいつ?誰が参加するの?と心待ちにしているものはないんです」

ここに来る人は子どもも大人もみな里山の魔法にかかってしまうようです。誇張ではありません。私自身も含めて本当にそうなのです。

私はこの里山の魔法のチカラを借りながら、子どもたちが自分の手でツリーハウスを作った自信と誇りをもって卒業していくまで、いつか施設の先輩あるいは開拓団の一員として、この里山に戻ってきてくれるまで、そしてさらには救世軍機恵子寮さんが、子どもたちの傷ついた心に豊かなふるさとまで創り上げてくれる「全国初の里山付き児童養護施設」として広く社会に認知されるまで、この活動を続けることができたらと心から願っているのです。

2018年12月 東京里山開拓団 代表 堀崎 茂

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